資金調達

飲食店が開業資金を調達するために知っておくべき傾向と対策

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月27日

開業資金の調達方法

飲食店を開業するためには、開業に必要な資金を調達しなければなりません。
ここでは、一般的に考えられる開業資金の調達方法を解説します。
なお、開業資金の調達方法を考える前に、開業するにあたってどの程度の資金が必要となるのかを知っておく必要があります。こちらの記事を参考にして、開業資金を計算してみてください。
飲食店の開業準備時に知っておくべき開業資金の計算方法

Step1 自己資金を集めてみる

まずは、開業資金として使える自己資金を集めてみます。
経営リスクを下げるという意味では、全額を自己資金でまかなうのがベストですが、借入など他から資金調達する場合であっても、できる限り自己資金を多くしておいた方が借入しやすくなるなどのメリットがあります。
一方で、自己資金を貯めようとすると、かなりの時間がかかってしまうため、どこまでを自己資金でまかなうのがよいかという論点が残ります。

Step2 親族からの借入や贈与の可否を検討する

次に、ご両親など、開業資金を貸してもらえそうなご親族をあたってみるのも一案としてあります。
なお、親族から開業資金を借りる場合は、借入額、返済方法、金利、返済期限を明確にした上で貸主、借主の署名と押印をした借用証書を作成し、その借用証書の通りに返済を進めていくなどの対応をしておかないと、贈与税がかかってしまう可能性がある点、ご留意ください。

Step3 金融機関から創業融資で調達する

Step1、2で足りない部分は金融機関からの借入に頼ることになります。
金融機関といっても、どこの銀行でもいいわけではありません。
創業時に調達がしやすい借入制度として、利用できるのは、日本政策金融公庫の創業融資と地方自治体の制度融資の2つになります。
日本政策金融公庫は、個人事業やスモールビジネスをサポートしている公的な金融機関であり、創業段階でも比較的融資を受けやすい金融機関です。また、制度融資は、都道府県や市区町村などが用意している融資の制度であり、信用保証協会の保証を受けながら開業時の融資をつけてくれる制度になります。
このように、開業資金はできる限り自己資金で調達すべきですが、

日本政策金融公庫の創業融資制度

それでは、まずは創業融資のハードルが一番低い日本政策金融公庫の創業融資制度から解説します。

日本政策金融公庫とは

日本政策金融公庫は、国の政策で個人事業や中小企業などを資金面からサポートしている公的な金融機関であり、創業段階の事業者が利用できる融資制度もいくつか用意されている金融機関になります。
メガバンクや地方銀行など民間金融機関は、基本的に営業実績のある事業者が融資の対象となっていますが、日本政策金融公庫では、営業実績のない創業者も融資を受けやすいことが特徴となっています。

日本政策金融公庫の創業融資

創業前後においてもっとも利用しやすい日本政策金融公庫の融資制度は、「新創業融資制度」になります。
新創業融資制度は、創業前または創業後間もない事業者が、無担保・無保証で利用できる創業融資であり、日本政策金融公庫の他の融資制度と組み合わせて利用するものとなります。
なお、他の制度よりも無担保・無保証である分、若干金利が高く設定されていますが、信用保証協会の保証が不要であるため、地方自治体の制度融資では通常必要となる保証料はかかりません。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
日本政策金融公庫の新創業融資制度を狙うなら知っておくべきポイント

新創業融資制度の利用条件

まずは、新創業融資制度を利用するための要件です。実際の要件は細かく規定されていますので、日本政策金融公庫のホームページで確認していただく前提で、今回はポイントをあげてみます。要件は「創業の要件」「雇用創出、経済活性化、勤務経験または修得技能の要件」「自己資金の要件」の3つあり、これをすべて満たす必要があります。

創業の要件

新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方
こちらは、会社として創業融資を受けたい場合は、会社を設立していないと申し込みできません。
また、事業開始は開業届の提出日など形式的な日付ではなく、例えば、賃貸借契約書や水道光熱費の支払、売上金の入金や従業員などへの給与の支払いが開始された、実質的に事業が始まったことを持って事業開始と判断されます。

雇用創出、経済活性化、勤務経験または修得技能の要件

こちらは、細かい要件は日本政策金融公庫に確認していただきたいのですが、簡単に言うと、「従業員を雇用する開業」か「ニーズがあり差別化されたサービスでの開業」か「過去長く勤めた業種と同じ業種での開業」であればOKということです。

自己資金の要件

こちらは、創業時に創業資金の1/10以上の自己資金があればOKということです。なお、自己資金要件については、他の要件を満たせばクリアできることもあります。
ただし、注意してきただきたいのは、1/10の自己資金を用意すれば創業融資が受けられるということではありません。あくまで申し込みができるというだけであって、実際には自己資金を多く用意すればするほど創業融資の可能性は高くなります。
実際、当社の創業融資が得られた事例でいうと、3割くらいの自己資金を用意できているケースが多いです。

地方自治体の制度融資

次は、地方自治体の制度融資をご紹介します。

地方自治体の制度融資とは

制度融資は、都道府県や市区町村などの地方自治体が創業者など地域の事業者をサポートする融資制度であり、民間金融機関と信用保証協会の三者が連携して公的な資金を貸し付ける制度です。
各地方自治体によって内容は異なりますので、具体的な内容については、各地方自治体のホームページ等でご確認いただくか、直接お問い合わせください。
なお、東京と大阪の制度融資については、以下の記事にまとめましたので、ご覧ください。
創業時に活用できる制度融資のポイント〜東京編〜
創業時に活用できる制度融資のポイント〜大阪編〜

地方自治体の制度融資の特徴

地方自治体の制度融資は、各地方自治体によって異なるため、ここでは、日本政策金融公庫の創業融資と比べながら、一般的な特徴を解説したいと思います。

審査の時間がかかる

日本政策金融公庫の創業融資は、審査の期間が通常2〜3週間ですが、地方自治体の制度融資は、地方自治体と民間金融機関と信用保証協会の三者の審査があるため、通常1ヶ月以上かかり、場合によっては2ヶ月を超えるケースもあります。
そのため、融資までの期間にスピード感を求める時は、デメリットとなることがあります。

信用保証料がかかる

制度融資は、地方自治体と民間金融機関と信用保証協会の三者連携の融資であるため、信用保証協会の信用保証が前提となります。したがって、信用保証協会の保証料がかかってきます。
なお、地方自治体によっては、信用保証協会の信用保証料を補填してくれるところもあります。

創業融資と制度融資、どちらがいい?

このように、飲食店の開業時の開業資金を借入金でまかなう場合には、大きく分けて日本政策金融公庫と地方自治体の制度融資の2つがあります。
この2つのうち、どちらがいいのでしょうか?
これは、利用できる地方自治体の制度融資や必要な調達額、自己資金などによっても変わってきますが、誤解をおそれずにいうと、日本政策金融公庫の創業融資の方が利用しやすいのではないかと思います。
まず、日本政策金融公庫の創業融資の方が、申し込みから融資実行までの審査期間が短いため、少しでも早く開業することができます。これは、大きなメリットです。
また、金利水準からいうと、日本政策金融公庫の創業融資の方が高いことが多いですが、地方自治体の制度融資では金利に加え、信用保証協会の信用保証料の負担が発生することがあり、トータルで日本政策金融公庫の創業融資の方が低いということもあります。
その他、審査の厳しさも日本政策金融公庫の創業融資の方が比較的優しいというケースもあることから、日本政策金融公庫の創業融資の方が利用しやすいとさせていただきました。
実際には、金融機関の担当者や利用できる制度によって変わってきますので、可能性がある限り、トライしてみてください。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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