資金調達

【創業計画書の事例分析】損益計画の書き方〜店舗業の場合〜

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月26日

創業融資を受けるために、欠かせないのが事業計画書の作成です。
中でも頭を悩ませるのが、事業の見通しをどう表現するか、ではないでしょうか。
今回は、店舗業における事業の見通しの書き方を、日本政策金融公庫のホームページに掲載されている創業計画書の記入例を参考にしながら、読み解いていきたいと思います。

今回取り上げる業種は居酒屋とアパレル業ですが、店舗形態の業種であれば、応用の効く解説をしていますので、店舗型の創業を予定されている方はぜひお読みください。
まずは、こちらから日本政策金融公庫の創業計画書記載例から洋風居酒屋と婦人服・子供服小売業をダウンロードしてください。
日本政策金融公庫の創業計画書記載例をダウンロード
それでは、洋風居酒屋と婦人服・子供服小売業の事例を分析してみます。

居酒屋

    創業当初 軌道に乗った後
  売上高①  256万円  332万円
売上原価(仕入高)②    90万円 117万円
経費       人件費 60万円 78万円
家賃   20万円  20万円
支払利息   2万円  2万円
その他  50万円  60万円
合計③ 132万円 160万円
利益(①ー②−③)  34万円  55万円

創業当初

売上高

日曜日が定休日という前提で、以下のような売上予測を行なっています。

  • 昼(月~木)  900円×25席×0.8回転×26日=46万円
  • 夜(月~木)3,500円×25席×0.8回転×18日=126万円
  • 夜(金、土) 3,500円×25席×1.2回転×8日=84万円

この事例では、昼と夜で客単価を分けて、座席数と客の回転数と営業日数でそれぞれの売上高を算定しています。
このような算定方法は、居酒屋だけでなく、飲食店全般で可能でしょうし、座席数や部屋数など店舗でキャパシティが決まっているような業態であれば、使用できる売上予測方法です。

原価率

  •  35%(勤務時の経験から)

勤務時の経験から35%とされています。
この点、本来はレシピを作成し、売上単価と原材料等の原価から原価率を算定すべきでありますが、この事例では勤務時の経験からというざっくりした見積もりが許容されているとも読めます。
開業前に精緻な原価率は算定が難しいということでしょうが、裏返せば、経験から原価率をある程度把握できているという専門知識を持っているということも言えると思います。
したがって、原価率のようなデータから算定が難しいような数字は、「勘」ではなく、「過去の経験」から導いたものとしておく方がベターですね。

人件費 

  •  専従者1人(妻)10万円 
  •  従業員1人20万円    
  •  アルバイト4人 時給800円×14時間/日×26日=30万円  

まずは、専従者1名(妻)となっています。専従者とは、家族が手伝っているような場合にこのような記載をします。
また、従業員とアルバイトを分けて、アルバイトは時給と勤務時間と日数から給料を算定しています。
合計で人件費60万円というのではなく、どのような人員が何名いて、単価がいくらという点まで記載しておくべきということですね。

その他の費用

  • 家賃 20万円 
  • 支払利息700万円×年○.○%÷12ヵ月=2万円
  • その他光熱費、広告宣伝費等50万円

その他の費用としては、家賃、支払利息、光熱費、広告宣伝費がクローズアップされています。
いずれも店舗業にとっては、大きな支出となるものです。
支払利息は、お金を借りた場合に発生する金利です。日本政策金融公庫の新創業融資制度であれば、平成29年3月10日現在、このようになっています(出典:日本政策金融公庫の主要金利一覧表
金利は総合的な判断で決定されるため、あくまで目安ですが、計画段階では基準金利の中間値のざっくり2.5%程度でおいて試算すればよいのではないかと思います。
この他にも大きな費用があれば記載した方がいいと思われますが、もし何を書いたらよいかわからなければ、このあたりの支出項目の月平均額を見積もって書いておけばよさそうです。
これ以外の細々した支出がどれくらいあるかの試算して、その他に記載しておくことをお忘れなく。これが漏れていたら、収支の見込みが大きく外れる原因となります。

軌道に乗った後

  1. 創業当初の1.3倍(勤務時の経験から) 
  2. 当初の原価率を採用
  3. 人件費 従業員1人増 18万円増  
  4. その他諸経費10万円増

まず、売上高については、軌道に乗れば、創業当初の1.3倍と見込んでいます。これも勤務時の経験からとされています。
ざっくりとした見込みとも見えますが、実際に開業前のタイミングで軌道に乗った後の売上を見込むのは至難の技なので、先ほどの「過去の経験」をアピールしながら、事業規模を拡大させるのがベターであると思われます。
また、売上規模を1.3倍と見込めば、これに応じて、変えていくべきものを調整していきます。
原価率は売上規模が1.3倍になっても、変わらないと見込んでいますが、飲食店の場合はそうでしょうね。他の業種なら、売上規模が増えれば、原価率が変わるものもあるかもしれませんので、個別判断が必要になるポイントです。
売上が1.3倍になれば、当然人員が増やさないと厳しいですね。事例では従業員を1名増やしています。
あと、細かい見積もりは難しいでしょうが、売上が1.3倍になることで、その他の諸経費を月額10万円増やしています。これも「勘」ではなく「過去の経験」によるものとすべきポイントですね。
 

アパレル

    創業当初 軌道に乗った後
  売上高①  195万円  234万円
売上原価(仕入高)②    117万円 141万円
経費       人件費 11万円 16万円
家賃   15万円  15万円
支払利息   2万円  2万円
その他  11万円  16万円
合計③ 39万円 49万円
利益(①ー②−③)  39万円  44万円

創業当初

売上高

  • 7,500円(平均単価)×10人/日×26日=195万円

こちらの事例では、平均単価と1日の来客数と営業日数から売上予測を算定しています。
アパレルのような来客数のキャパシティの制約が大きくない業態の店舗では、席数とか席の回転数などがないため、少しシンプル担っていますね。
その代わりに平均単価と来客数の見込みがより重要になります。
店舗の場所や取り扱うアイテムによって、平均単価と来客数の見込みが変わってくると思いますので、市場調査をきっちりした上で、「過去の経験」を交えつつ、平均単価と来客数を予測していきましょう。

原価率

  • 60%(勤務時の経験から)

この事例についても、先ほどの居酒屋の事例と同じく、「勤務時の経験から」という根拠の元で、60%とされています。
やはり、原価率というものを見積もるのは大変ですので、「過去の経験」から算定するということで、許容されているということなんでしょうね。
できれば、開業前から、売上だけでなく、仕入原価にも気を配り、きっちり原価率を意識することが重要ということです。

人件費

  • アルバイト1人 時給800円×5時間/日×26日=11万円

次に、人件費ですが、事例では、開業当初はオーナーとアルバイト1名でスタートする形となっています。
最近では、場所によってはアルバイトも採用が難しくなっているため、ハローワークやアルバイト求人雑誌などで時給相場などを調べます。
思っていたより時給を上げないと採用できなかった、ということがないように事前に調査しておきましょう。

その他の費用

  • 家賃15万円
  • 支払利息 600万円×年○.○%÷12ヵ月=2万円
  • その他 リース料、光熱費、通信費等11万円

まずは、家賃ですが、こちらもエリアや規模など店舗物件に大きく左右されます。出店したいエリアの不動産情報を収集し、希望する物件をいくつかピックアップした上で、どれくらいの家賃相場なのかを見積もってください。
この時に、家賃の低さだけをみて、人通りが少ない場所や駅から離れた場所など、そもそもターゲットにしたいお客様が少ないエリアの物件を選ぶと、先ほど予測した売上高に影響をします。十分に注意して、総合的な調査をしてみてください。
これ以外の細々した支出がどれくらいあるかの試算して、その他に記載しておくことをお忘れなく。これが漏れていたら、収支の見込みが大きく外れる原因となります。

軌道に乗った後

  • 売上高は創業当初の1.2倍(勤務時の経験から)
  • 当初の原価率を採用
  • 人件費 アルバイト1人増 5万円増  
  • その他諸経費5万円増

まず、こちらの事例も売上高については、軌道に乗れば、創業当初の1.2倍と見込んでいますが、これも勤務時の経験からとされています。
居酒屋と同様、実際に開業前のタイミングで軌道に乗った後の売上を見込むのは至難の技なので、先ほどの「過去の経験」をアピールしながら、事業規模を拡大させるのがベターであると思われます。
また、売上規模を1.2倍と見込めば、これに応じて、変えていくべきものを調整していきます。
まず、原価率は売上規模が1.2倍になっても、変わらないと見込んでいます。仕入原価に大きな変動はないと思われますので、原価率は変えていないのでしょう。
また、売上が1.2倍になることで、アルバイトスタッフを1名増員することで、月額5万円の人件費が増えます。
さらに、その他の諸経費も売上が増えて、スタッフが増えることで、消耗品や水道光熱費など雑多なものが増えますので、月額5万円の増額を見込んでいます。
こちらの事例も、軌道に乗った際にどれくらいの売上拡大を見込むかによって、支出の内容が変わってきます。まずは、売上規模がどれくらいになるかを想定しながら、その他の項目の調整をかけていけば、問題なさそうです。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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