資金調達

【創業計画書の事例分析】損益計画の書き方〜受注型ビジネスの場合〜

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月26日

創業融資を受けるために、欠かせないのが事業計画書の作成です。
中でも頭を悩ませるのが、事業の見通しをどう表現するか、ではないでしょうか。
今回は、受注生産業における事業の見通しの書き方を、日本政策金融公庫のホームページに掲載されている創業計画書の記入例を参考にしながら、読み解いていきたいと思います。

今回取り上げる業種はソフトウェア開発業と内装工事業ですが、受注を受けて作ったり、工事をしたりする業種であれば、応用の効く解説をしていますので、受注生産型の創業を予定されている方はぜひお読みください。
まずは、こちらから日本政策金融公庫の創業計画書記載例からソフトウェア開発業と内装工事業をダウンロードしてください。
日本政策金融公庫の創業計画書記載例をダウンロード
それでは、ソフトウェア開発業と内装工事業の事例を分析してみます。

ソフトウェア開発業

    創業当初 軌道に乗った後
  売上高①  300万円  390万円
売上原価(仕入高)②    90万円 117万円
経費       人件費 100万円 140万円
家賃   20万円  20万円
支払利息   3万円  3万円
その他  75万円  95万円
合計③ 198万円 258万円
利益(①ー②−③)  12万円  15万円

創業当初

売上高

顧客からソフトウェア開発の受注があり、これに基づいて開発していくという前提です。

  • 売上高 300万円/件×1件/月=300万円(受注契約書あり)

この事例では、1件あたりの受注が高額になるため、算式自体はシンプルです。
ポイントは、やはり立ち上げ当初の受注見込みでしょう。このような業種は、受注が1件取れるかどうかで事業の見通しが大きく変わってきます。まずは、受注が確実に取れるルートがあるかどうか?そこから月何件の受注を見込むことができるのか?という点について、しっかりと検証して、売上予測をしていきましょう。
原価率

  • 外注費 30%(勤務時の経験から)

勤務時の経験から外注費を30%と見込んでいます。
この点、本来はこの工程は外部業者に外注しないといけないというポイントを整理して、実際の契約金額に対する外注割合を算定すべきところですが、この事例では勤務時の経験からというざっくりした見積もりが許容されているとも読めます。
開業前に精緻な外注費率の算定が難しいということでしょうが、裏返せば、経験から外注費率をある程度把握できているという専門知識を持っているということも言えると思います。
したがって、原価率のようなデータから算定が難しいような数字は、「勘」ではなく、「過去の経験」から導いたものとしておく方がベターですね。

人件費 

  • 代表者1人 45万円
  • 役員1人 30万円
  • 従業員1人 25万円 

この事例では、各社員ごとに給与を算定しています。ポイントは、

  • 役職別に何名いるか?
  • 役職別の平均給与はいくら?

です。人数と平均給与から人件費の合計を算定します。
人件費の算定をしながら、どのようなチームを作っていくか、またそのチームを運営するための人件費がどれくらいかかるのかのイメージを膨らませていくことが重要です。

その他の費用

  • 家賃20万円
  • 支払利息(内訳)500万円×年○.○%÷12ヵ月=○万円 計3万円
  • その他光熱費、消耗品費等 75万円

その他の費用としては、家賃、支払利息、光熱費、消耗品がクローズアップされています。
この他にも、チラシやWEB広告のボリュームが多い業種であれば広告宣伝費であったり、移動が多い業種であれば、旅費交通費をピックアップすることもあります。
支払利息は、お金を借りた場合に発生する金利です。日本政策金融公庫の新創業融資制度であれば、日本政策金融公庫の主要金利一覧表をご確認ください。
金利は総合的な判断で決定されるため、あくまで目安ですが、計画段階では基準金利の中間値のざっくり2.5%程度でおいて試算すればよいのではないかと思います。
この他にも大きな費用があれば記載した方がいいと思われますが、もし何を書いたらよいかわからなければ、このあたりの支出項目の月平均額を見積もって書いておけばよさそうです。
これ以外の細々した支出がどれくらいあるかの試算して、その他に記載しておくことをお忘れなく。これが漏れていたら、収支の見込みが大きく外れる原因となります。

軌道に乗った後

  1. 創業当初の1.3倍(勤務時の経験から)
  2. 当初の原価率を採用
  3. 人件費 従業員1人増、役員報酬・従業員給与増額 計40万円増
  4. その他諸経費 20万円増

まず、売上高については、軌道に乗れば、創業当初の1.3倍と見込んでいます。これも勤務時の経験からとされています。
ざっくりとした見込みとも見えますが、実際に開業前のタイミングで軌道に乗った後の売上を見込むのは至難の技なので、先ほどの「過去の経験」をアピールしながら、事業規模を拡大させるのがベターであると思われます。
また、売上規模を1.3倍と見込めば、これに応じて、変えていくべきものを調整していきます。
原価率は売上規模が1.3倍になっても当初のままで変わらないと見込んでいますが、これは業種によって違ってくると思いますので、ご留意ください。
人件費は従業員を1名採用した上で、役員報酬や給与額を増額しています。売上が1.3倍になれば、当然人員が増やさないと厳しいですね。特に、売上に対する人件費の比率の大きい業種の場合はこの傾向が強いと思います。
あと、細かい見積もりは難しいでしょうが、売上が1.3倍になることで、その他の諸経費を月額20万円増やしています。これも「勘」ではなく「過去の経験」に基づくものとすべきポイントですね。
 

内装工事業

    創業当初 軌道に乗った後
  売上高①  400万円  520万円
売上原価(仕入高)②    260万円 338万円
経費       人件費 80万円 110万円
家賃   15万円  15万円
支払利息   1万円  1万円
その他  30万円  40万円
合計③ 126万円 166万円
利益(①ー②−③)  14万円  16万円

創業当初

売上高

  • 200万円/件×2件/月=400万円(受注契約あり)

こちらの事例も、シンプルな売上予測の算定方法となっています。
やはり受注生産業は売上見通しは受注が得られるかどうかにかかっていますので、先ほどのソフトウェア開発業と同じく、受注が確実に取れるルートがあるかどうか?そこから月何件の受注を見込むことができるのか?という点について、しっかりと検証して、売上予測をしていきましょう。
ここは、販売先が、個人顧客なのか、法人顧客なのかによっても変わってくると思います。個人顧客であれば、広告宣伝や集客の方法がポイントになりますし、法人顧客であれば、信頼関係を構築してリピーターになってもらうことがポイントになることもあるでしょう。それぞれの業種・業態に応じて、受注ルートを検討していきましょう。
原価率

  • 65%(材料費、外注費)(勤務時の経験から)

こちらの事例も、先ほどのソフトウェア開発業と同じく、勤務時の経験から材料費と外注費を合計で65%と見込んでいます。
やはり、原価率というものを見積もるのは大変ですので、「過去の経験」から算定するということで、許容されているということなんでしょうね。
できれば、開業前のサラリーマン時代から、材料費はどれくらいか?どの程度の外注をしているのか?外注単価はどれくらいなのか?という意識を持って、コスト感覚を身につけることが重要ですね。

人件費

  • 代表者1人 30万円
  • 役員1人 30万円
  • 従業員1人 20万円

この事例でも、各社員ごとに給与を算定しています。やはり、ポイントは

  • 役職別に何名いるか?
  • 役職別の平均給与はいくら?

です。
独立開業して一番困るのは、人が足りないということです。やらないといけないことが山ほどあるため、人手は必要ですが、一方で、資金的にも余裕がないのが普通だと思いますので、限られた予算の中で人員構成をどう組み立てるかは非常に重要なポイントです。
しっかりと検討していきましょう。

その他の費用

  • 家賃 15万円
  • 支払利息 500万円×年○.○%÷12ヵ月=1万円
  • その他諸経費30万円

こちらもほぼソフトウェア開発業と同じですので、詳細は割愛します。
支出というのは、思っていた以上に発生するものです。
業種・業態によって細々した支出が違ってきますので、余裕を見てその他の費用を計画しておきましょう。

軌道に乗った後

  • 創業当初の1.3倍(勤務時の経験から)
  • 当初の原価率を採用
  • 人件費 役員報酬・従業員給与増額 計30万円増
  • その他諸経費10万円増

まず、こちらの事例も売上高については、軌道に乗れば、創業当初の1.3倍と見込んでいますが、これも勤務時の経験からとされています。
ソフトウェア開発業と同様、軌道に乗った後の売上を見込むのはかなり難しいと思われますので、先ほどの「過去の経験」をアピールしながら、事業規模を拡大させるのがよいのではないかと思われます。
また、売上規模を1.3倍と見込めば、これに応じて、変えていくべきものを調整していきます。
まず、原価率は売上規模が1.3倍になっても、変わらないと見込んでいます。1.3倍くらいでは、材料費の構成や単価、外注費に大きな変動はないと思われますので、原価率は変えていないのでしょう。
また、売上が1.3倍になることで、人件費のアップを見込んでいます。こちらも、残業代が増えたり、もしかしたら、スタッフを新たに採用したりすることも必要になるかもしれませんので、売上拡大に合わせて人員構成のイメージも膨らませてみてください。
さらに、その他の諸経費も売上が増えることで、移動にかかるコストや営業コストなど雑多なものが増えますので、月額10万円の増額を見込んでいます。
こちらの事例も、軌道に乗った際にどれくらいの売上拡大を見込むかによって、支出の内容が変わってきます。まずは、売上規模がどれくらいになるかを想定しながら、その他の項目の調整をかけていけば、問題なさそうです。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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