資金調達

銀行格付の仕組みと格付の改善に必要なこと

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月27日

「格付」とネット検索すると「信用格付」「芸能人格付」がまずヒットします。
これらは銀行との取引で使われる、いわゆる「格付」とは全く異なるものですが、その意味するところには共通する部分があります。それは順位付けすることです。
ひとことで言えば、銀行で使う格付も融資取引している企業を順位付けすることなのです。
今回のテーマは『銀行格付けの仕組みと格付けを上げるために必要なこと』ですが、これを理解いただくために、まず格付の基本事項についてお話しします。

銀行員から見た格付

私は銀行員として数多くの企業を格付してきました。
経営者の方にはよく見えない部分だと思いますが、銀行がどのように格付けをしているかご関心がおありだと思います。
そういう観点からもお役に立てばと思いますので、最後までお読みください。

銀行格付の仕組み~今さら聞けない基本的なこと

銀行でいう格付には「信用格付」「企業格付」「銀行格付」などいろいろな呼び方があります。銀行内部では、監督官庁である金融庁の指示文書(金融検査マニュアルなど)に基づいて作業をしており、単に格付と呼んでいます。(ここからは格付で統一します)

格付とは?

銀行が保有する資産=債権(貸出のこと)を自ら査定する(この作業を自己査定と言います。)課程において、融資している相手=債務者を順位付けする作業のことを格付といいます。
(ここまで書いて、読むのがイヤになった人もいるかも知れません。今回は金融検査マニュアルなど、金融庁HPからの引用を用いて平易に説明していくつもりですが、こうした用語・基礎知識は経営者として銀行と付き合って行くうえで必須なものです。ただし、あまり教科書的にならないようにしますので、ぜひお付き合いください)
まず、それぞれのキーワードについてもう少し詳しく説明します。

自己査定・格付・債務者区分

資産査定とは、金融機関の保有する資産を個別に検討して、回収の危険性又は価値の毀損の危険性の度合いに従って区分することであり、預金者の預金などがどの程度安全確実な資産に見合っているか、言い換えれば、資産の不良化によりどの程度の危険にさらされているかを判定するものであり、金融機関自らが行う資産査定を自己査定という。自己査定は、金融機関が信用リスクを管理するための手段であるとともに、適正な償却・引当を行うための準備作業である。また、償却・引当とは、自己査定結果に基づき、貸倒等の実態を踏まえ債権等の将来の予想損失額等を適時かつ適正に見積ることである。(金融庁HPより)

引用端的に言えば、銀行の資産は貸出金です。逆に預金は負債になります。
一定期間お金を借りて、それに見合う利息を付けて返す。預金も借入もこの点では同じです。
ですから銀行預金は、銀行が預金者から借金しているようなもの、とも言えます。
預金で集めたお金を⇒資金が必要な相手に融資して⇒金利を付けて全額返済してもらって⇒預金に金利を付けて預金者へ返す⇒この流れを『金融仲介機能』といいます。
文字にすれば至極当たり前のことですが、そもそも銀行とは金融仲介機能で商売しているからこそ金融機関と呼ばれています。
ところで融資した資金が返済されなければ、理論的には預金も返せなくなってしまいます。
これが貸倒れ(かしだおれ)です。
貸倒れが続けば銀行は破綻し、銀行が破綻すれば預金の安全性も脅かされてしまいます。
そこで、債務者の業況などを把握して、融資した資金が返済できなくなるリスク(これを回収の懸念、信用リスクなどと表現します)を銀行自身が見極めなければならないのです。
ここまでまとめますと、それぞれ言葉の定義は以下のようになります。
貸出金のリスク=回収懸念を分析するのが⇒『自己査定』
融資した相手=債務者のリスクを見極めて順位付けするのが⇒『格付』
そして債務者の順位付け結果が『債務者区分』となります。

債務者区分とは?

「債務者区分」とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先 に区分することをいう(金融庁HPより引用)

債務者区分と格付は言ってみれば表裏一体の関係で、銀行でも明確に使い分けされていません。実際には「あの会社の格付は▲▲で・・・」「あの会社は格付が■■だから新規の融資は無理だな」などと格付のほうが主に使われ、格付=債務者区分と混同されています。「格付を上げる」とはすなわち「債務者区分を上位にする」ことです。
今回のテーマで最も重要な部分ですので、あとで詳しく説明することにして、その前に債務者区分について説明します。

債務者区分の仕分け方は金融機関によって違う

金融庁の文書である『金融検査マニュアル』では債務者区分を5段階に分けています。
すなわち

  • 正常先(せいじょうさき)
  • 要注意(ようちゅうい)先(さき)
  • 破綻(はたん)懸念先(けねんさき)
  • 実質(じっしつ)破綻先(はたんさき)
  • 破綻先(はたんさき)

これが大まかな区分です。
金融機関は、金融検査マニュアルに基づき独自のやり方で、債務者を区分しています。
正常先から破綻先までを細分化し、例えば正常先の中でも1,2,3位と更に細かく区分するなど、債務者区分は金融機関によって違います。
またその呼び方も漢字、アルファベット、ギリシャ数字や算用数字など多種多様ですが、
基本的な区分けの基準は、全て金融検査マニュアルに準拠しています。
(余談ですが、色々なWEBサイトでは「信金マンが格付についてお話します」などのタイトルで『私の信金(銀行では)債務者区分をAAAが最上でCCCが最下限です』などと説明したものがあります。
そもそも債務者区分や格付の内容は金融機関の機密事項であり、間違っても外部に漏らすものではありません。また金融機関では副業を禁止しているところが多いので、サイトやブログに投稿している現役金融マンのほとんどは匿名です。
債務者区分は金融機関によって違いますので、その債務者区分を使っている人間にはすぐにわかります。勤務している金融機関から、すでにマークされているかも知れません)

債務者区分それぞれについて解説します

ここからは、それぞれの債務者区分について金融検査マニュアルでの定義と、それについての簡単な解説をしていきます。これらも銀行との取引では必要な知識です。

正常先

正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務
者をいう(金融庁HPより引用)

端的に言うと「黒字」つまり決算書で利益が出ている企業が正常先と言って良いでしょう。
実際には赤字でも正常先になるケースもあります。ここが重要なポイントですので、こちら
ものちほど詳しくお話します。

要注意先

≪要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業 況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある 債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。≫
≪また、要注意先となる債務者については、要管理先である債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい≫
要注意先に、今度は「要管理先」という名前が出てきました。これはつまり要注意先にも2種類あるという意味です。深く触れるとかえってわかりにくくなってしまいますので

  1. 要注意先にも2種類ある
  2. 業況低調ないしは不安定⇒「赤字」つまり決算書で損失が出ている企業が要注意先
  3. 貸出条件に問題のある⇒返済の軽減:いわゆるリスケをしている企業が要管理先

とイメージして頂ければ結構です。

破綻懸念先

破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金 融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。(中略)今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。(金融庁HPより引用)

赤字でも重度のもの、例えば繰越欠損が巨額、債務超過の状態が長く続いているなど。
債務超過(財産より借金のほうが大きい)が続けば企業は立ちゆかなくなりますので、
まさに経営破綻に陥る可能性が大きい企業と言えます。

実質破綻先

実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っ ている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、(中略)再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう(金融庁HPより引用)

お役所の金融庁でもかなり厳しい表現ですが、まさに再建の見通しが無い企業のことです。
私の銀行では「もう死んでいる」などと隠語で読んでいます。
(隠語は機密情報ではありませんし、銀行のオフィシャル用語でもありません。念のため)

破綻先

破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、 民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破 綻に陥っている債務者をいう。(金融庁HPより引用)

こちらについて特に説明は不要でしょう。

格付(債務者区分)は何に影響するのか?

ここまで読んでいただいて、格付・債務者区分について概ね理解いただけたものと思います。では、この格付(債務者区分)が何に、どのように影響してくるのでしょうか?
ここからが銀行との取引で重要なポイントになります。

格付は借りられるかどうか?に影響する

繰り返しになりますが借りられるかどうか?です。
「いくらまで借りられるのか」でも「金利は何%で借りられるのか」でもありません。
純粋に「借りられるかどうか?」ということです。正常先であれば問題はありません。黒字企業に融資しない銀行はいないでしょう。
また赤字でも要注意先なら融資はしてもらえます。(もちろん条件にもよりますが)
破綻懸念先、実質破綻先、そして当然破綻先には金融機関は融資しません。
このように、格付だけで融資するかしないか?が決められてしまいます。
理由は至極明快です。正常先、要注意先までなら融資しても返済ができるから、つまり貸した金を回収することができるから、融資をするのです。
破綻懸念先以下は、返済できないので貸さない、理由はそれだけです。

格付はどんな風に借りられるか?に影響する

「どんな風に?」とは金額・金利・返済年数といった融資の様々な条件のことです。
格付が良い企業は、返済できなくなるリスクが低いので、融資する条件も良くなります。
つまり、格付が良いほど多く、低い金利で、他にも有利な条件で借りられるということです。
正常先⇒要注意先と格付が低くなるほど融資金額が減ったり金利が高くなったりします。
また融資するときに担保を求められたり、積立預金や他の取引を強要されたりと、扱いが悪くなってきます。極端な表現をすれば、格付が良い企業は金融機関にとっても良いお客様なのです。
ここまで読むと「銀行は晴れの時に傘を貸し、雨の時に傘を取上げる」という表現も理解いただけると思います。

格付を上げるために必要なこと

格付を上げる、すなわち債務者区分を上げることに裏ワザ・テクニックなどありません。
基本的には黒字化、財務状態の良化があれば可能です。
赤字から黒字になる
黒字化したおかげで繰越欠損もなくなった
債務超過から脱出できた
当然と言えば当然ですが、業況・財務の好転は格付=債務者区分を上げることになります。
「それができれば苦労しないよ」といった声もあろうかとは思います。ただ、これは厳然たる事実、決して理想論ではありません。ところで金融機関は「中小企業に対しては業況・財務について弾力的に判断すること」と、金融庁から指示されています。裏ワザは無いといいましたが、この部分などは裏ワザとまでは言いませんが重要なこと、つまり格付が上がるヒントになるかも知れませんのでいくつかお話ししていきます。

赤字でも赤字じゃない?

「創業赤字」「一過性の赤字」などといった言葉がそれに当たります。
創業赤字とは、創業したばかりの会社で、事業を開始したばかりの赤字だから特別視する。一過性の赤字とは、災害や事故などその企業に関係の無い突発的なもので、来年以降はあり得ないだろうと考えられるような赤字。
こういったケースでは、決算書上赤字になっていても正常先となる場合があります。

借入なのに借入じゃない?

「代表者や役員からの借入」「未払いの役員報酬」などです。
代表者や役員(代表の父母・家族などが主)からの借入は、会社を軌道に乗せるために社長や家族が自腹を切ったものです。会社に返済を求める人はまずいません。
未払いの役員報酬も上記と同じ解釈です。
これらは「返済を要しない借入なので債務から控除しても良い」とされ、決算書上では赤字、債務超過でも、控除した結果債務超過が解消されて、格付が上がることがあります。
(返済していたり、未払い報酬を一部でも支払ったりすると、認められない場合もあります)

会社の貸借対照表に載っていない資産をプラスできる?

代表者の個人資産も加味して、決算書の債務超過を判断する場合があります。
例えば社長の自宅や、役員(社長の両親など)がアパートを持ってるなど
会社+個人の資産で債務超過を判断した結果、債務超過ではなくなり格付が上がることもあります。(自宅に住宅ローンなど借入・担保設定があると認められない場合もあります)

この会社を潰してはまずい!

これは文字通り、つまりその企業の重要性が救いになることがあるということです。
「地域にとって無くてはならない企業」「長年地域に根ざした企業」といった理由で格付を上げてくれる場合もあります。

独自の技術、ノウハウが最後の綱になる?

技術の独自性などで上記同様格付が上がる場合もあります。
「当社を含め日本で数社しか製造できない」「この加工で当社の右に出るものはいない」

格付に対する金融機関の考え、今昔

原則的に、銀行は格付を上位にあげたいと恣意的に作業をします。
それにはいくつか理由があります。

格付が低いほど貸倒れリスクが高まり、貸倒引当金を積まなければならないから

格付が低くなるほど、金融機関は貸倒引当金を多く積まなければなりません。貸倒引当金を積むというのは、すなわち銀行の利益が減ることに他なりません。最近の出来事では不正融資問題で、スルガ銀行が黒字から赤字転落となったニュースが記憶に新しいところです。
下記のように、監督官庁・政府の方針とともに格付を上げる風潮になっています。

金融庁が格付を「上げろ上げろ」と言っているから

金融機関の監督官庁である金融庁が、自己査定、格付二対する方針を大きく変えました。
昔は「厳しく厳しく」が原則でした。バブル崩壊を教訓にして、銀行に対し厳しい資産査定を貸したため、銀行の格付も「厳しく厳しく」なっていました。
それが現在では、格付の基本姿勢は「支援育成」に変わっています。
≪顧客の経営実態等を踏まえて、適切に新規融資や貸付条件の変更を行うこと ・債務者の経営実態を踏まえて、経営相談・経営指導及び経営改善に関する支援を行なうこと ・与信取引に関し、顧客に対する説明が適切かつ十分に行われること ・顧客からの与信取引に係る問い合わせ、相談、要望及び苦情への対応が適切に実施されること≫金融庁HPより銀行の格付作業でも、どうやって格付を上げるか(これを「救済する」といいます)という思考で取り組むようになってきました。

金融円滑化のためには格付を上げなければいけないから

上記と似た理由ですが「金融円滑化」という言葉は皆さんもご存じでしょう。
バブル崩壊後、超保守的になって銀行が極端に融資姿勢を厳しくした「貸し渋り」「貸し剥がし」をさせないために、時限立法など政府主導で、銀行が積極的に融資するように⇒金融を円滑化するという趣旨です。
この考えは今も続いており、格付を上げることで銀行に融資をさせようというのが金融円滑化の考え方なのです。

格付を上げるために、情報をどう活かしていくか?~まとめ

格付を上げる裏ワザはありません。この考えに変りはありませんが、これまでお話ししたことにいくつもヒントがあると思います。
例えば、ご自身の会社の決算書を見て下さい。
赤字でも、それは一過性の赤字ではありませんか?
あなた(社長)からの借入を差し引けば債務超過から脱却できませんか?
業況は長く低迷していても、これだけは負けないという製品・技術はありませんか?銀行と付き合って行く上で、格付・債務者区分とはなんぞや?を知ることで今後の参考にしていただければと思います。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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