マネジメント

売上を伸ばすためには「経営の数値化」が近道である理由

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月27日

集客や商品開発、スタッフの育成など、立ち上げた事業がだんだん忙しくなると、どうしてもマネジメントがおろそかになってしまいがちです。
特に、数字を見るのが好きじゃない経営者は、どうしても数字から遠ざかってしまいます。
でも、その結果、感覚優先の経営判断やどんぶり勘定となってしまい、事業が思ったように回らなくなり、気づいたらお金が減っていた・・・、ということになってしまいます。
今回は、なぜ数字を見ないと経営がうまく回らないのかという理由を考えながら、経営を数値化する重要性について描いてみたいと思います。

なんで数字を見ないとマズイ?

事業経営をしていく上で、数字をうまく使いこなせないとダメという話をよく聞きます。
私も、この点については、店舗などのBtoCのビジネスでも、会社を相手とするBtoBのビジネスでも変わらずに重要だという認識です。
まずは、なぜ数字を見ないとマズイのかについて、考えてみたいと思います。

経営上の課題が特定できない

まず、経営の数字が見えていないことで発生するデメリットとして大きなものが、経営上の課題が特定できないということです。
例えば、多くの経営者は売上を増やしたいと考えていると思いますが、この「売上を増やしたい」というイメージのままでは、何をどうしたらよいうかというのがよくわからないままになってしまうケースが多いです。
この売上を増やしたいというイメージを数字で見ていくと、「5ヶ月で毎月の売上を200万円から300万円に増やしたい」ということになります。
「売上を増やしたい」

「5ヶ月で毎月の売上を200万円から300万円に増やしたい」
こうすることで、何が見えてくるかというと、毎月20万円ずつ売上を増やしていけばよいということが見えてきます。
となれば、現状の売上からの上積みを10%乗せていけばよいということになりますので、新規商品などに手を出すよりも、商品はそのままで集客のみに注力すべき、などというやるべき課題が見えてくるようになります。

メンバーとの意識の共有ができない

数字が見えないと発生する2つ目の問題は、メンバーとの意識や課題、問題認識の共有です。
ここでいうメンバーとは、経営者だけでなく、管理者、従業員、スタッフなどの社内のメンバーの他、外部の様々な協力者も含まれます。
先ほどの「売上を増やしたい」という経営者のイメージであれば、

  • どれくらい増やしたいのか?
  • いつまでに増やしたいのか?
  • どうやって増やしたいのか?

というイメージがメンバーごとに違ってきます。
このあたりが、明確になっていないと、メンバー間でどこに課題があるのか、とか何を優先してやるべきなのかというような共通認識が曖昧になってしまい、コミュニケーションの問題に発展します。
ビジネスは、一人ではできないことがほとんどで、様々な形はありますが、たとえ数人であったとしてもチームが機能しないと結果は出ないので、売上を増やすという経営者のやりたいことが達成できなくなってしまいます。
チームとして成果を出していくためには、数字で会話することが重要なポイントとなります。

事業が突然死してしまう

事業経営をしていくための生命線は「お金」です。
経営において、お金は当然に重要なもので、お金がなくなった時点で事業は終了してしまいます。
でも、経営をしていると、お客さんを集めたり、いい商品を作ったり、従業員やスタッフの育成をしたり、お金のことが頭から離れることもよくあります。
そこで、重要になるのが、やはり数字です。

  • 売上の入金がきちんとされているか?
  • 銀行口座の残高がイメージ通りに増えているか?
  • 支払いのためのお金が十分にあるか?

利益を出して、お金を増やしていくことだけが経営ではないですが、お金を管理していかないと経営は継続できません。
安心して経営に集中するためにも、数字をしっかり理解して経営することが重要となります。

数字で経営するための手順

とはいえ、経営に数字を使いこなすといってもなかなか難しいように思えます。
そんな時は、日常の経営を思い出してみましょう。
例えば、先ほども取り上げた「売上を増やしていく」ということから考えてみます。

まずは目標の数値化する

まず、先ほどは、
「売上を増やしたい」
「5ヶ月で毎月の売上を200万円から300万円に増やしたい」
というように、目標を数値化しました。
繰り返しになりますが、目標の数値化は非常に重要です。
定量的な目標を設定することで、目標が具体化されるだけではなく、実際に結果が出た場合のギャップを知ることができるようになります。
そうすると、何がどれくらい足りなかったのか?を振り返ることができます。
いわゆるPDCAサイクルを回すことができるようになります。
また、目標の数値化によってチーム内での共有も具体化されるため、このPDCAサイクルをチーム全員で取り組むことができるようになります。
まずは、毎月の目標を数値化していくことからはじめてみてください。

定性情報に注目する

毎月の目標が数値化できたら、次は数値化しにくい定性情報に注目します。
定性情報とは、何でしょうか?
まずは、定性情報の意味をWeblio辞書で調べてみます。

数値化できない定量情報以外の情報で文章、画像、音声などのこと。
となっています。
ちょっとわかりにくいですが、定性情報とは、お客様や従業員との会話やメールから得られるニーズやクレームなど、直接的には数値化できないような情報をいいます。
この定性情報は、経営にとって非常に重要ですが、取り扱いを間違えたらプラスにならないばかりか、マイナスになってしまうことすらある厄介な側面を持っています。
それは、どのようなことかといいますと、定性情報には、主観や感覚といったものが少なからず含まれているため、一定のルールのもとでも共有や分析がしにくいという点があげられます。
経営判断をする材料として、情報は非常に重要なのですが、この情報に主観や感覚が入っていると、本質的ではない問題が過大評価されたり、逆に、重要で解決すべき問題が見えてこなかったりします。
したがって、定性情報はそのままでは扱いにくいので、数値化する必要がありますが、先ほどの定義にもありましたように、定性情報は「数値化できない定量情報以外の情報」とあるように、定性情報の数値化はそのまま捉えると矛盾しているようにも思えます。

定性情報を数値化する

それでは、定性情報をどのようにして数値化していくかについて、一例をご紹介します。

step1 定性情報をデータベース化する

まずは、定性情報をデータベース化するのですが、難しい話ではありません。
例えば、売上を伸ばすために必要な定性情報として代表的なものは、失注したお客様との商談やお客様からいただいたクレームなどです。
これらの情報は耳の痛い情報ですので、あまり触れたくはありませんし、基本的には口頭でのやりとりが多いため記録に残りにくいものになりがちですが、これらの情報を活かしてサービスの改善や集客に活用しない手はありません。
これらの定性情報をデータベースにするというのは、例えば、商談結果を商談記録やクレーム報告というものに記載しておいて、日付などの順番でファイリングするか、エクセルなどの媒体で保存しておくだけでOKです。
データベースというのはシステムのデータベースでなくても、エクセルや紙のファイルでも十分です。

step2 定性情報を色分けする

次に、データベース化した定性情報を色分けしていきます。
ここでの色分けとは、定性情報をいくつかのジャンルに分けていくイメージです。
例えば、失注した商談記録であれば、

  • サポートの不安
  • 提供エリアでない
  • 競合サービスに負けた
  • 欲しいサービスでない
  • オーバースペック

というような失注した理由別に定性情報を分けていきます。
この作業は、初めからジャンルを決めておくというよりも、分けながら色分けをしていって、ジャンルを後から決めるという流れの方がうまくいくことがあります。

step3 定性情報を数値化する

Step2までの作業で、定性情報をある程度可視化することができました。
最後にStep3として、可視化した定性情報を数値化するのですが、これも難しい話ではありません。
例えば、100件の失注した商談記録があったとします。これを色分けした結果が次のようになりました。

  • サポートの不安 33件
  • 提供エリアでない 12件
  • 競合サービスに負けた 13件
  • 欲しいサービスでない 22件
  • オーバースペック 20件

これで定性情報の数値化ができました。
失注した理由として一番大きかったのがサポートの不安です。となれば、サポートに対してどのような不安があるのか?どのようなサポートがあれば安心してもらえるのか?というような点について、しっかり調査を行い、サポートの改善をしていくことが受注率の向上につながるのではないかという仮説を立てることができます。
また、欲しいサービスでないというジャンルが22件あったということは、もしかしたら商談をかけているリストがマッチしていない可能性があることも仮説として成り立ちます。
となれば、受注率の向上のためには、リードの選定を見直していくことが必要という経営判断を導くこともできます。
このように、日々飛び交っている定性情報をきっちり数値化していくことで、売上を増やしていくことにつながっていきます。

非常に重要なのは数字を読むこと

このように経営イメージを数値化することは小規模事業や中小企業が売上を伸ばし、利益を出して、経営を安定化させるために欠かせない経営手法です。
でも受注が増えても、お客さんの数が増えても、お金がなくなってしまえばその時点で終了です。
ですので、お金の数字もきっちり使いこなしていかないと、経営は継続できません。
では実際にどのようにお金を数値化していくかというと、上記のように様々な方法がありますが、小規模事業や中小企業でもっとも重要で、かつ数字をつかみやすいのが会計データとなります。
会計は、事業経営をする上では、税務申告のために必ずやらないといけないものですので、基本的にはどの小規模事業や中小企業でも会計データを持っているはずです。
会計データを読むためには、一般的には会計データを会計ソフトからエクスポートして、エクセルなどの表計算ソフトでお金の動きを分析することになります。
こちらが参考となりますので、ご覧ください。
参考記事:エクセルで予算を作って成果を出すための手順【個人・中小企業向け】
参考記事:エクセルを使った売上予算の作り方【個人事業・中小企業向け】
エクセルは非常に便利なツールで、会計データがあれば、基本的なお金の動きの分析はできますし、編集などもできますが、いくつか難点があります。
まず1点目ですが、お金の動きを分析をするためには、ある程度の会計の知識が必要になることです。特に、管理会計の知識がないと、売上を増やしたら、コストがどのように動いて、利益がどう変わるかといったあたりの関係がよくわからなくなって、手を焼くことになるかもしれません。
次に、エクセルは非常に優れたツールでゼロベースでいろいろなことができるのですが、裏を返せば、ゼロから作らないといけないので、結構大変な作業になってしまいがちです。私たちも以前はエクセルで経営シミュレーションのサポートをしていましたが、私たちプロがやっても、1社あたり毎月1〜2時間はエクセルの作業時間を費やしていました。
ですので、経営を分析をするためには、会計の知識とエクセルなどのスキルがあればよりベターですので、大変かもしれませんが、勉強しながら経営を先読みしてみてください。
ちなみに、簡単に経営のシミュレーションをするクラウドツールもあります。
このクラウドツールを使えば、会計ソフトからデータを連携すると5分で、会計の専門知識がなくても簡単に経営をシミュレーションすることができます。
無料で利用することもできますので、経営をシミュレーションしながら、数字を読んだ経営をしたいという方は、一度試してみてはいかがでしょうか。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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