業務効率化

iPadレジを使って適正な販売価格を導くための4つのポイント

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。

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更新日:2020年1月9日 投稿日:2019年12月25日

お店を経営していく上で、販売価格をどのように決定していくかは、永遠の課題です。
販売価格は、自社の原価、必要な利益、競合の状況、など多くの変数の影響を受け、しかもその変数も流動的に変わっていくため、単純に決定することはできません。
今回は、そのような難しい販売価格の決定という課題に対して、販売価格の分析がしやすいiPadレジを使って、どのように分析をすればよいかについて解説してみます。

販売価格を決める重要なものは?

販売価格をいくらにしたらよいという正解はありません。
京セラの創業者である稲盛氏も「値決めは経営」とおっしゃっているように、販売価格の決定はまさに経営の根幹をなすものです。
お店の経営者の考え方や経営理念が販売価格に現れているといってもいいと思います。
このように、非常に難しい販売価格の設定ですが、検討する上での一般的な定石というものは存在します。
その一般的な販売価格を決める上で重要となるのが、お店の販売データです。
いつどの商品がいくらで販売されたのか?ということが販売データを見ればわかります。この販売データというまぎれもない事実をどのように分析するかが、販売価格を決定する上での重要な判断材料となるのです。
それでは、その販売データはどこかあるかというと、どのお店にもあるレジの中にあります。
ただし、レジにもデータ分析がしやすいものとそうでないものがあるので注意が必要です。
当社では、小規模なお店で販売価格分析に最も適したレジは、iPadレジであると考えています。
iPadレジは、インターネット上に販売データが蓄積されており、かつインターネットにつながったパソコンやiPadがあれば、簡単にいろいろな分析をする機能がついています。
今回は、iPadレジの売上データを活かしながら、販売価格を決めるための手法を見ていきたいと思います。

販売価格の決定パターン

前述の通り、販売価格の決めるための方法に正解はありません。
どの方法が正しいというものではなく、自分のお店にあった価格決定方法を選択して、販売価格を決定していきます。
それでは、まずお店における販売価格の決定方法にどのようなものがあるのか見ていきましょう。

パターン1 お店全体の必要な利益から逆算して販売価格を決める方法

お店を経営していく上で、最も重要なのは、売上ではありません。
重要なのはいくらお金が残っているか、ということになります。簡単にいうと、利益が重要になります。
販売価格というのは、お店の利益、特に売上から仕入値を引いた粗利益に最も直接的な影響を与えます。
非常にシンプルな話ですが、100円の商品を120円に値上げした場合、仕入原価は変わらないため、粗利益は値上げ分の20円がそのまま増加します。
「お店全体の必要な利益から逆算する」方法で販売価格を決めるには、手順があります。
最初に、ご自身のお店で毎月必要な粗利の金額はどれくらいか、把握する必要があります。
ある飲食店の事例を見てみましょう。
これは、その飲食店のとある月の試算表です。

こちらの試算表によると、営業利益が55,668円です。これが、このお店での1ヶ月間の儲けです。
このお店の経営者は、この利益をもう少し増やしたいと考えました。
きっと、利益を増やしたいという背景には、おそらく様々な狙いがあると思われます。例えば、

  • 新規出店するための費用を貯めたい
  • もっといい立地のところに引っ越したい
  • アルバイトをもっと増やしたい
  • 自分の給料を増やしたい

というようなことがあると思いますが、とにかく毎日忙しく働いているのだから、最低でもあと50,000円は儲けを増やしたい考えました。
儲けである営業利益を50,000円増やすためには、人件費や家賃などの販売費・一般管理費が変わらないとすると現在の粗利益705,668円から755,668円まで増やす必要があります。
粗利益を増やすために、販売価格を引き上げる方法を検討してみましょう。
この段階でやみくもに販売価格を引き上げるのは得策ではありません。例えば、全商品5%値上げ、などを単純に行ってしまうと、確かに粗利益は増えますが、お店全体の価格が上がったと見られたら、客足が遠のいてしまうかもしれません。
では、どうすればよいかというと、メニューごとに粗利益を分析しながら、個別メニューごとに価格改定(値上げ)を検討していきます。
ここで、現状の粗利益705,668円のメニュー別の内訳を把握するために、iPadレジの売上データが活躍します。
エアレジやスマレジでお会計を行うと、商品別の売上データが自動的に集計されていきます。
もう一歩進んで、エアレジやスマレジで商品別に原価を設定することもできます。商品ごとに原価を設定しておけば、結果として、商品ごとの粗利益も算出することもできます。
商品ごとの粗利益を把握するためのiPadレジの設定方法については、こちらの記事を参考にしてください。
ABC分析とは?売上アップを実現するレジの正しい使い方
このようにして把握した商品別の粗利は次のような状態でした。

販売価格を値上げすれば、単純にその値上げ分だけ粗利益も増えます。
今回は、粗利益の上位3つのメニュー「トマトパスタ」「ミートソースパスタ」「フランスワイン」の販売価格の改定を検討してみましょう。
検討するために、先ほどのエクセルの右に「価格改定後」の列を追加してみました。
上記3つのメニューの販売価格を少しずつ値上げしてみます。

それぞれ少しずつ値上げしてみるとこのようになりました。
最終的な粗利益は756,051円になり、現状の粗利益より50,383円アップしました。
今回は非常に単純化して考えています。
実際は、値上げすれば買い控えするお客さんも出てくると思われますし、ある程度は販売数量が落ち込むと思われます。
その落ち込む数量も仮定して、粗利益を予測する必要があります。
この販売価格の決め方で重要な点は、最初に「お店全体の経営として、粗利益がどれくらい必要なのか?」を把握することから出発し、最終的に販売価格の決定に落とし込んでいることです。
「値決めは経営」というのはまさにこういった点で、希望する経営数値(利益数値)から販売価格を逆算していきます。
特定の商品の価格をこれくらい値上げすれば、お店全体の粗利益はこれくらい増えるはずだ、という仮説のもとに価格改定を行い、その結果をリアルタイムで追いかけることが重要です。
なお、お店全体の経営数値を数字ベースで把握せずに販売価格を何となく決定してしまうと、結果としてお店の経営が傾いてしまうことももちろんあります。
店舗業の経営者で特に小規模経営の方は、ご自身もお店に立ち、非常に繁忙を極めます。
そのため、場合によってはお店全体の数字を意識できず、目の前の業務に忙殺され大局的な判断ができなくなりがちです。
「お客様に質のいい商品やサービスを提供したい」という職人的な目線を持ちつつ、一方で経営者として冷静に数字ベースで販売価格を決定していくという考えは、今後安定的にお店を経営していくために非常に重要です。

パターン2 仕入原価に必要な利益を加算して販売価格を決める方法

次にご紹介する方法は、商品を1つ販売したら、最低これくらいの利益を確保しておきたい、というシンプルな考え方に基づいたもので、仕入原価にいくらの利益を乗せて販売するかを決めるという方法です。
この方法をとる場合、iPadレジを活用して、販売価格改定後の粗利益の推移をしっかりと把握し、お店全体として必要な粗利益が確保できているかを大局的に把握しておく必要があります。
もし、全体の粗利益の把握が難しければ、iPadレジの商品別売上データから、販売価格を改定した商品の販売数量だけでも定期的にチェックしておきましょう。
例えば値上げした商品について、販売数量が予想以上に落ち込んでいる場合は要注意です。逆に値下げして、予想以上に販売数量が伸びない場合も同様です。
販売価格を変更した時に重要なのは、その後のお客様の反応をできるだけ短いスパンでウォッチして、想定外の動きがあった時に価格の修正などを迅速に対応することです。
ここが販売価格を決定した後に販売データをリアルタイムに把握しやすいiPadレジがオススメしたいポイントでもあります。
販売価格は、決定や変更した後の調整が非常に重要となるケースが多いですので、しっかりとチェックをして正解を見つけていきましょう。

パターン3 同業他社の価格を参考にして販売価格を決める方法

販売価格を決定する上で、意識する必要があるのは、同業他社の同商品の販売価格です。
上記の例では、トマトパスタやミートソースパスタはありふれたメニューで、同じようなジャンルの飲食店であれば、おそらく同じようなメニューを出していると思われます。
近年、インターネット及び飲食店を比較する口コミサイト等が広がっており、消費者は、商品の評判や販売価格を簡単に把握することができるようになっています。
そこで競合のお店と販売価格を比較されないためには、そのお店にしかない独自の商品、全く類似品がないような商品を提供する必要があります。しかし一般的には、このような商品を中小規模の事業者が作るのはほとんど不可能に近いと思われます。
小さいお店で価格比較されない商品を作ろうとする場合には、開発やブランディングを確立するための長い期間が必要で、かつ相当な費用が必要と思われます。
したがって、どうしても類似する業種の、類似する商品の販売価格を意識せざるを得ない状況になってしまいます。
お客様も、類似商品と比較して販売価格が高いか安いかは必ず意識しますので、この考え方を避けて通ることはできません。
比較されないために、どのように差別化するか、どのように見せていくかはまさに事業者の腕の見せ所になります。

パターン4 お客様の動向を見ながら販売価格を決定する方法

「お店全体の必要な利益から逆算する」や「原価に必要な利益を加算する」は、どれくらいの利益を確保したいかというお店サイドの考え方をベースにしたものでした。また、「同業他社の価格を参考にする」は、外部環境をベースにした考え方です。
ここで、ご紹介する「お客様の動向を見ながら販売価格を決定する」という方法は、これまでの方法とはアプローチが若干異なります。
具体例を挙げてみていきましょう。

カレーを値上げして売上高を見てみる

ある飲食店(カレー屋さん)を例に挙げてみていきましょう。
このカレー屋さんは以前から「具だくさんカレー」を600円という値段で提供していました。お店はお客様が絶えず来店してくださりありがたい限りなのですが、あまりにも忙しすぎるので、もう少し値段を上げたらどうなるんだろう、と考え、販売価格の改定(値上げ)を検討することにしました。
なお、値上げしますが、分量や材料は特に変えない予定で、「具だくさんカレー」の一食あたりの仕入原価は変わらないという前提です。
まず、「具だくさんカレー」の販売価格を段階的に値上げしてみて、販売数量の変化を見ていくことにしましょう。
最初、カレーの販売価格は600円ですが、これを1週間ごとに50円ずつ値上げしていきます。
すると、販売数量が少しずつ減っていきました。値上げしたので、お客様が減ってしまったということです。
売上高を見ると、販売価格600円のときの1週間の売上高は30,000円でした。毎週値上げした結果、売上高はだんだん落ちていきました。

果たして、この値上げは大丈夫だったのでしょうか?

売上高ではなく、粗利益で見てみると?

この結果をもう少し分析してみましょう。
カレーの販売価格は値上げしましたが、価格を変えただけで分量や材料は特に変えていないという前提でした。カレーの原価は200円で一定だったとします。 原価を把握できると、当然粗利益も算出することができます。
販売価格と粗利益の関係を、先ほどの週次データに当てはめて見てみましょう。

このように粗利益ベースで見ると、先ほどとは異なった結果になりました。
3週目の販売価格を750円に設定した際の粗利益が、最も大きくなっています。
これは、値上げに伴い販売数量は減ったものの、カレー一食あたりの粗利益が増加したため、粗利益の絶対額で見ると増加した結果となりました。
売上高だけでは見えなかった点が見えてきました。
結果的に、販売価格を750円に設定することで、お客様の数は20%減りましたが、粗利益自体は10%アップしました。
このように、販売価格を粗利益の関係を追いかけると、粗利益が最大となる販売価格を見つけることができるようになります。
この手法で販売価格を検証するには、いくつか条件があります。

  • 商品ごとの販売数量をリアルタイムで把握できる
  • 商品ごとに販売期間を任意に指定し、販売数量を把握できる
  • 商品ごとの原価を設定し、売上データとぶつけて集計できる

これらは全てエアレジやスマレジなどのiPadレジであれば可能な項目ばかりです。
特別なプラン設定は必要なく、もともと準備されている設定項目や分析項目を使えば、十分対応可能です。
このような形での販売価格のテストは、これまで高価なPOSを持った事業者しかできませんでした。
しかし、近年のエアレジやスマレジを中心とする安価なiPadレジシステムの登場により、開業したばかりの小規模事業者でも可能になりました。しかも、ご自身でやってみれば、費用はゼロです。

まとめ

販売価格を決定するには、様々な面から検討する必要があり、一筋縄ではいきません。上記に挙げた方法を複数加味しながら慎重に決定しましょう。
一方で、どの方法をとるにしても現状の販売数量をリアルタイムに把握できる仕組みの構築は必須になります。
エアレジやスマレジを使えば、この仕組みは簡単に構築できます。
特にポイントは、商品登録時の初期設定、特に原価設定です。ここさえ忘れずに登録しておけば、後の分析データ加工は難しいものではありません。
また、売上データを日常的に見るという習慣は必ずつけておく必要があります。場合によっては、売上データを見るのはつらい時もあると思います。
しかし、売上データは紛れもない現実です。全てに目を通す必要はなく、「価格改定した場合には販売数量を追いかける」など、ルールを決めておいて、自分に必要なポイントのみを追いかけるようにしましょう。

国見 英嗣

監修:国見英嗣(公認会計士)

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。

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