「粗利率が高い」≠「儲かる」を事例で経営分析しながら解説します

利益率のよい商材やサービスを取り扱って粗利率を高めることは事業にとってプラスの要素となりますが、高ければ高い方がいいかというとそうでもありません。
利益率を高めても利益が大きくならなければ意味がないということを、粗利率と利益との関係から考えてみたいと思います。

粗利率とは何か?

実は、粗利率という用語は会計の正式な用語ではありません。粗利率とはさまざまな商売の現場で使われている用語であり、業種や業界によって意味合いが異なるものですが、一般的には、売上高から変動費を差し引くことで計算される利益を粗利益といい、粗利益を売上高で割ったものを粗利率といいます。また、変動費とは、仕入や外注費など、売上高に比例して増減する費用をいいます。

粗利益 = 売上高ー変動費
粗利率 = 粗利益÷売上高×100%

つまり、粗利益とは、商品や製品、サービスなどを売り上げることで、仕入れなどの費用を差し引いて直接的に得られる利益のことであり、粗利率とは、売上に占める粗利益の割合となっています。
売上が増えても、それ以上に仕入などの変動費が増えてしまっては、利益は増えないどころかどんどんお金がなくなってしまいます。事業の利益の源泉が粗利益となっています。
粗利益を意識することで、見えにくかった経営が数字で見えてくることになります。
粗利率を高めるということは、一つの商品やサービスを販売して得られる利益が大きくなることから、粗利率の高いビジネスをすることは絶対的によいことかとも思えますが、実は、単純にそういうことでもありません。

3つのビジネスで考えてみる

今回は、実際の事例をみながら「粗利率」と「儲け」の関係を紐解いて行きたいと思います。
そこで、起業を考えている鈴木さん(30代男性)という方に登場していただきます。鈴木さんは、どのようなビジネスを行うかを考えています。どのビジネスが一番儲かるかというシミュレーションのお手伝いをしてみたいと思います。

鈴木さんは、あるエリアでお店を使った事業展開を考えています。
今、頭に描いている事業は次の3つです。

  • 過去に経験のあるピザ専門店
  • 奥さんが美容師なので、美容室
  • 以前から興味のあった雑貨屋さん

この3つの事業のイメージを具体的にモデル化していきながら、どの事業がベストな選択かを検討してみたいと思います。

ピザ専門店の粗利率

まず、ピザ専門店について、検討してみたいと思います。

鈴木さんは以前、ピザ専門店で働いておりピザには思い入れがあります。
そこで、とびきり美味しいピザを提供したいと考え、試作品を作りながらメニューを考えていました。

通常、ピザの原価率というと、10〜20%が相場といわれていますが、鈴木さんのこだわりから、いい原材料をたくさん使うことにしました。すると、思った以上に原価がかかり、平均販売価格が1400円に対して原価が450円ほどとなりそうです。
お店は座席数が20席程度の小さいもので、ランチ、ディナーを含めて平日、休日で平均すると2回転となる見込みです。
一方で、ある程度の集客をするために道路に面した1階の物件が必要であったため、店舗の家賃が15万円と少し高めになりました。
また、お店をオープンするために、敷金やお店の内外装工事などで、銀行から5年返済で300万円の借入が必要となりそうです。

これを表にまとめると、こんな感じです。

業種ピザ屋
平均販売単価1,400円
平均原価450円
店舗家賃15万円/月
人件費30万円/月
その他費用15万円/月
借入金300万円(5年返済)

これで1ヶ月の利益を計算してみると

粗利益 = (@1,400ー@450)×20座席×2回転×営業日数25日 = 95万円
粗利率 = 95万円÷140万円 = 68%

となり、粗利率は68%で粗利益は95万円獲得できることになりそうです。

美容師の粗利率

次に美容室について、粗利率を検討します。

美容室の場合、お客様の支払ってくださる料金に対して直接仕入れが必要になるものはないため、粗利率は100%と考えることができるかもしれませんが、実際にはシャンプーやカラーなどの美容材料費用がかかるため、一人当たり400円程度は原価が発生します。
座席数は3席で、土日平日を平均した1日の回転数は4回転を見込んでいます。
平均単価は4,000円となる見込みです。
一方で、ある程度の集客をするために道路に面した1階の物件が必要であったため、店舗の家賃が15万円と少し高めになりました。従業員も経験のあるスタッフが1名必要となります。その他の費用も広告費などの負担が大きく毎月30万円程度が必要になりそうです。
また、お店をオープンするために、敷金やお店の内外装工事などで、銀行から5年返済で500万円の借入が必要となりそうです。

これを表にまとめると、こんな感じです。

業種美容室
平均販売単価4,000円
平均原価400円
店舗家賃15万円/月
人件費35万円/月
その他費用30万円/月
借入金500万円(5年返済)

これで1ヶ月の利益を計算してみると

粗利益 = (@4,000ー@400)×3座席×4回転×営業日数25日 = 108万円
粗利率 = 108万円÷120万円 = 90%

となり、粗利率は90%で粗利益は108万円獲得できることになりそうです。非常に高い粗利率ですね。

雑貨屋の粗利率

最後に雑貨屋さんについて、検討してみたいと思います。


鈴木さんは以前から輸入雑貨が大好きで、前からやってみたかったお店のイメージがありました。
そこで、今回のタイミングで検討してみようということになりました。

雑貨屋さんは取り扱う商品によって粗利率は変わるのですが、鈴木さんは特段の仕入ルートを持っているわけでもなくお店の規模も大きくないため、雑貨の商社などに商談をしていった結果、平均的な粗利率は50%程度になりそうです。
一方で、店舗の家賃を押さえるために、大通りから1本入った通りのビルの2階の物件に目をつけており、そこなら家賃が月額10万円程度に抑えられそうです。スタッフなども当面は採用せず鈴木さん1人でやる予定です。
また、お店をオープンするために、敷金やお店の内外装工事などが必要なのですが、それほど手を入れなくても大丈夫な物件であったことから銀行からの借入は5年返済で100万円におさえることができそうです。

これを表にまとめると、こんな感じです。

業種雑貨屋
平均月商80万円
店舗家賃10万円/月
人件費採用しない
その他費用5万円/月
借入金100万円(5年返済)

仕入原価が50%程度と少し高くなってしまいそうなので、粗利率は50%となります。

さて、どのビジネスが一番儲かるか?

以上のように、それぞれの事業の粗利率は以下のようになります。

  • ピザ専門店 68%
  • 美容室 90%
  • 輸入雑貨屋 50%

このように、粗利率だけをみると美容室が圧倒的に高く、儲かりそうな気配があります。

さて、ここからが問題です。それぞれのビジネスにかかる固定費を比べてみましょう。

ピザ専門店美容室雑貨屋
人件費30万円35万円0円
家賃15万円15万円10万円
その他費用15万円30万円5万円
固定費合計60万円80万円15万円

このように、毎月の固定費が一番大きいのは美容室の80万円、ピザ専門店が60万円、輸入雑貨屋が15万円と一番安くなっています。
ここで、儲けを考える上で非常に重要な利益の区分をご紹介します。
それが、営業利益です。

営業利益とは、売上から営業するために要した全ての費用を差し引いた本業からの儲けを表す利益となります。
営業利益 = 売上高 ー 変動費(原価を含む) ー 固定費

営業利益は、事業を行うことによって稼いだ利益であるため、先ほどの3つの事業についても、儲けを考える上では、営業利益を計算することが非常に重要となります。

ピザ専門店美容室雑貨屋
粗利益95万円108万円40万円
固定費60万円80万円15万円
営業利益35万円28万円25万円

営業利益を比較すると、粗利率では美容室を下回るピザ専門店の営業利益が35万円と一番高くなっています。

このように、事業の儲けを考えるときには、粗利率だけではなく、固定費の回収までを考えた営業利益で判断することが重要となります。
粗利率だけではなく、売上を稼ぐためにどのくらいの固定費が必要になるのかをしっかり理解しながら、営業利益を残せるビジネスモデルを作ることが、事業の成否を分けることになりますので、事業計画の策定時や、毎月の採算管理においては、粗利率と固定費の両方を意識してください。

この記事の監修者

国見 英嗣

株式会社ナレッジラボ 代表取締役CEO

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。