予算管理で目標利益を実現するために欠かせない逆算の思考プロセス

売上計画や売上予算を考える時に、どのようなアプローチで目標となる売上高を設定していますか?
過去の延長やイメージでザクっと設定するのも一案ですが、当社では逆算の思考プロセスでロジカルに設定する方法をオススメしています。
今回は、必要な利益を達成する計画や予算を作る時に欠かせない逆算の思考プロセスをご紹介します。

利益はどのように計算されるかを復習しよう

まずは、事業の儲けである利益がどのように計算されるかを確認しておきましょう。
ここでいう利益は、事業をするときの最終の利益である当期純利益とします。
当期純利益は、損益計算書や試算表の一番下に表示されている利益であり、売上などの収益から全ての費用を差し引いたトータルの儲けを示す利益となります。

このように、事業の儲けである当期純利益は、損益計算書の一番上にある売上高から、仕入や人件費、家賃、経費、さらには銀行からの借入金の利息など、上から下に向かっていろいろな費用を差し引い計算することになります。
このため、損益計算書や試算表を見る時には、無意識のうちに上から下に見る癖がついている経営者の方が多くいらっしゃいます。

損益計算書の中で一番重要なのは〇〇

ここで、一つ質問です。
損益計算書に表示されているいろいろな項目の中で、もっとも重要なものは何ですか?
この質問の答えに正解はありません。
損益計算書の一番上に表示されている売上高が一番重要と考える経営者の方もいらっしゃると思います。
しかし、私たちは、中小企業や個人事業など小さい事業を経営されている場合は、損益計算書でもっとも重要な項目は、一番下に表示されている当期純利益であると考えています。

なぜなら、売上高がいくら伸びていても、当期純利益がマイナスであれば、事業のお金がどんどん減少していき、資金繰りが悪化していきます。ひいては、資金がショートし、事業を継続していけなくなるからです。
売上が成長しても、事業が継続できないのであれば、意味がありません。
したがって、中小企業や個人事業を経営する場合には、当期純利益の水準を常に意識して経営の舵取りをしていかないと安定した事業経営はできないと思います。
そのため、損益計算書では、一番下に表示されている当期純利益を起点に予算や事業計画を組み立てることが、経営を持続させる、経営を安定させるための大きなポイントとなります。

欲しい利益を実現する逆算の思考プロセスとは?

先ほどご紹介しましたように、多くの経営者は、無意識のうちに損益計算書を上から順番にみて、意思決定の判断材料を探そうとしています。
そうすると、ミスリードが生じる可能性があります。
それは、売上の変動に目がいってしまい、売上を伸ばすことのみに過度に注力してしまったり、一喜一憂してしまうことで、正しい意思決定ができない可能性があることです。事業経営をしていると、売上を伸ばすことや、利益を度外視して投資をすることも必要なフェーズがあると思います。
特に、起業して間もない場合や、スタートアップ企業の場合は、特に利益を求めるよりも売上を軌道に乗せることが重要なタイミングは必ずあります。
なので、利益よりも売上を重視することを否定するつもりは全くないのですが、一方で、経営をしていく上で重要な経営資源はお金です。
いくら事業の成長が見込まれていても、お金がなくなった時点で全てが強制終了となってしまいます。したがって、利益よりも売上を重視しなければならない経営者ほど、当期純利益の水準を常にウォッチし、最低ラインをコントロールしていかないと事業は継続できません。そこで重要になるのが、逆算の思考プロセスです。

逆算の思考プロセスの使い方

逆算の思考プロセスとは、当期純利益からスタートし、損益計算書を下から上に見ていきながら、意思決定をしていく思考プロセスをいいます。

この逆算の思考プロセスは、事業計画や予算を作ったり、投資や費用投下をするときに、どのレベルまで許容し売るかを考える際に非常に使い勝手がよくなります。

まずは過去データから逆算して損益構造を理解する

まずは、過去データである試算表や損益計算書を逆算の思考プロセスで見る場合の使い方をご紹介します。

この例であれば、まずは、最も重要な項目である当期純利益からスタートして、この利益を稼ぐためにどのような費用がどれくらい発生したかを見ていきます。
次に、これらの費用をまかなうためにどのくらいの売上総利益が必要だったかを見ていきます。
最後に、売上総利益の源泉となった売上高を確認します。

次に逆算で将来の損益モデルを作っていく

次に、過去データの損益構造から、将来の損益モデルを逆算で作っていきます。



まずは、来月に達成したい利益の水準を決めます。この事例では、当期純利益2,000を目標利益として設定します。
次に、来月の予定から想定される費用を見積もってコスト予算を設定していきます。
そうすると、目標の当期純利益にコスト予算を加えると、目標となる売上総利益が計算されます。
(予算)売上総利益 = 目標当期純利益 + コスト予算
ここまでで、売上総利益の予算額が決定しました。
この売上総利益の金額を売上総利益率で割り戻すことによって、目標となる売上高が逆算で計算されます。
このようにして、目標となる当期純利益から逆算で目標売上高を計算し、来月の損益モデルを作ることで、具体的に来月していかなければならないことを数字で理解できるようになります。

ゴールから逆算することで見えてくるものがある

以上のように、会計データも逆算の思考プロセスで見ていくことによって、経営に具体的に活用することができます。
特に、ゴールである当期純利益を明確に意識することは非常に重要です。
売上高は、直感的にイメージしやすく、日々の営業や事業運営に直接関係するものであるため意識しやすいのですが、当期純利益は、売上高にいろいろな項目を足したり引いたりと複雑で、直感的に理解しにくいため、後回しにされがちです。
しかし、経営(特に中小企業や個人事業といった小さい会社での事業経営)においては、キャッシュの増減に直接関連してくる当期純利益が非常に重要な経営指標となります。
できるだけ損益構造をシンプルに捉えるとともに、経営のゴール設定を当期純利益と置いて、逆算の思考プロセスで意思決定に使っていただけると経営のコントロールがしやすくなると思いますので、ぜひトライしてみてください。

この記事の監修者

国見 英嗣

株式会社ナレッジラボ 代表取締役CEO

有限責任監査法人トーマツ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて監査、ITコンサルティング、M&A・事業再編アドバイザリーなど経営管理領域の業務を幅広く経験。その後、株式会社ナレッジラボを創業し、代表取締役CEOに就任。