マネジメント

上場ベンチャー企業経理の実情とここだから言えるベンチャー支援秘話

土田響

監修:土田響(コンサルタント)

個人向け営業に従事していたが、財務・会計に興味があったことと新たなフィールドで活躍したいという想いで、ナレッジラボにジョイン。

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更新日:2020年1月28日 投稿日:2020年1月28日

マネーフォワードとナレッジラボが2019年12月10日に「ベンチャー交流ナイト」を共同開催しました。上場を目指す経営者/CFO向けの定期イベント第一弾です。
初回となる今回は、クラウド会計を使って上場するってどうなの?最近の関西におけるベンチャー企業のトレンドは?という旬な話題についてです。その中で行われたパネルディスカッションの内容をお届けします。


―ベンチャー企業がよく困っていることはなに?
権さん(以下敬称略):シンプルにお金。どれだけ売上が無くても、利益が無くてもお金が尽きなければ会社は潰れないので。特にスタートアップは、課題は顕在化しているけど解決策は潜在化している。こんな事業が当たるんじゃないかと試している状態が多い。この試している期間はそんなに売り上げにならない。売上になっても急成長しないといけないから先に資金調達をして、先に人を雇って、後から売上、利益がついてくるっていう形なので、一個一個の判断ミスの積み重ねがどんどん資金を圧迫してしまっている。僕もアドバイザーで入っているところは、ファイナンスの相談から入って、営業戦略、組織戦略、マーケティングと広げていきますが、やっぱりお金のところが一番ですね。お二人はどうですか?

杉浦:私は立場的に見ている視点が違うのですが、人が変わっていく中でビジネスルールが定まっていないことで起こる負のループをいかに止めるかということかなと思います。私がマネーフォワードに入ってからしたことはほとんどそれだったな。

:ミドルレイターになってくるとぐちゃぐちゃではすまされないところがあって、だいたいそういうところを形作るのは、めんどくさがって嫌がる既存社員が多いので、嫌われ役をやりながら作っていかないといけないですよね(笑)。

門出:既存の社員さんの貢献があって会社が大きくなったという背景はあるものの、後から入社された方は例えばIPOを目指してやっていこうという同意のもとで入っているので、既存の方と新しく入った方との意思疎通がうまくいかなくて、なかなかまとまらないという話はよく耳にしましたね。

:そもそも会社の不満って経営者の責任というところはあると思っていて、でも経営者はそういうところを軽視するんですよね。例えば日報をちゃんとやろうって決めても社長は日報を書いていないとか(笑)。その優先順位をあげるためにはどうしたらいいですかね?

門出:経営者自ら実行しているところは強いですよね。あとは課題感を持っていらっしゃって、管理部門とか内部監査とか監査役とかにすごく強力な方を招聘されて、逆に強力過ぎてうまくいったりうまくいかなかったりするケースもあったりするのですが(笑)。

―上場に向けてよく課題になるところは?(社内のルールの統制など)
門出:弊社はIPOコンサルもやっているので完全に宣伝みたいになってしまうのですが(笑)、誰が言うかみたいなところがあって、「社内の方が」言うと角が立ってしまうので、だれが悪者になるかみたいな話なんですけども、「社長が」とか「CFOが」っていうのもやり方の一つですが、一番効くのが「外部のコンサルタントであったり監査法人が言っているのでやらない選択肢はないです」、「どういう風にやりましょうか」という議論にしてしまうのが関係者に理解してもらえて、議論を前向きにできるポイントかなと思ってます。

山邉:確かにそうですよね。私も自分の会社の一経営陣として思うんですけど、社内のルール作りが結構難しくて、あっちを立てればこっちが立たないみたいなところがあるので誰かのせいにできたらいいなって思いながら聞いてました。

門出:お客様とも演じ分けをしていて、例えば管理部長からの依頼で「この人にこうゆうふうにアプローチして言ってください」っていうシナリオを描きながら演じきったりすることもあるので、うまく外部の人を使っていただいたらいいのかなと思っています。

山邉:みんな会社のためになるという理解はしているものの、自分の業務負担の面を考えると、感情的になってしまうところもあったりするのでぶつけるところがあればうまく回るんじゃないかなって思うところもありますよね。

杉浦:私も「誰が言うか」だと思ってます。ただ、外部の人に頼れないときは結局自分で言わないといけなかったりしますよね。これは私がしていたことですけど、担当した部署の方と飲みに行ったりしてコミュニケーションを取っていました。コミュニケーションを取っておかないと急に言われて嫌なやつだと思われてしまうので。自分がどういう人でどういう思いで仕事をしているかなどを事前に伝えておいて、「何かあったときに一緒にやりましょう」とか、「こういう風に変えるとこんないいことがありますよ」とかを事前に話しておくっていうことを目指してやってましたね。うまくいかないときももちろんあるんですけど、なるべくちゃんと会話するっていうことを心がけてました。

山邊:ルールをうまく作るよりもむしろコミュニケーションを取るっていうことのほうが意外と大事ってことなんですね。一方で、ルールを適切に作るっていうのも重要だと思うんですけど、感情の緩衝材を作っていくのも大事っていうことなんですね。ありがとうございます。
それ以外に上場に向けてよく課題になることはありますでしょうか。

:前職からの経験で主に上場でつまずくのはIT統制、税務、未払給与、事業計画(予実)の4つですね。
特に経営者としては予実が合うかどうかが一番パワーのいるところで、皆さんストレッチさせて計画を作っていくので、そうすると最後、営業にかなり負荷がかかってしまう。バックオフィス側からするとそれでも容認できる体制をいかに作るかが大事だと思いますね。
ただ、会計士としての監査業務を6年ほどやっていないので補足があればお願いします。

門出:おっしゃる通りであまり補足はないですが(笑)、会計処理でどうこうなるっていうことはほとんどなくて、実務では監査の証明を出す段階で潰してしまうんですね。なので顕在化するのはITのところ、未払給与ももちろん近年話題になっているのですが、意識をしていらっしゃる企業が多いです。思わぬところから来るっていうのはITの仕組みですかね。というのも人数が増え続けているバックオフィスは結構ヤバくて、声の大きい古株の方が「業務が大変だー」ってどんどん人を雇っているところはIT面がヤバいんじゃないのっていう傾向はあります。

―これまでのベンチャー支援等での成功事例(失敗事例)は?
:アドバイザーとして資金調達のお手伝いしていると、事業計画で、5年で上場するストーリーを描くときに、上場時にバックオフィスの人数がどれくらい必要で、監査法人に支払う費用はどれぐらなのかってなかなか情報ってないんですよね。 なので、「5年後の組織図がどうなっているべきなの?」みたいな話がある中で、「このトップライン築いていくためにバックオフィスってこの人数で本当に回るんだっけ?」 みたいな話を経理の方も巻き込みながらやっていきます。 経理事務の方は計画のところをとりあえず言われた数字を作るっていうふうになりがちなんですが、まぁ経理に限らずですが、大きい視点で物事を考えながら、計画の数字を実施したときの売り上げとコストの関係を、経営者やメンバーとディスカッションしながら共有できるところは経営者から感謝されるところですね。

杉浦:この質問難しいですねー。私がマネーフォワードの経理に入ってこれは良かったなって思うことは、徹底してITリテラシーをあげるということですかね。スプレッドシートの使い方、エクセルの使い方などそのレベルからなんですけど、業務が増えたときにこれで回せますか?っていう前提で作っていくようにしてました。Excelの様々な関数を入れただけで必要なデータが出ますよとか、みんな「ITリテラシーをあげるだけで工数減るものがあるのならやっていこうよ」っていう意識だったので、そういう風に改革できたっていうことが自分がやってきたことで良かったことですね。

山邊:単純にそれをやり続けると作業が増えるからその前工程からどうにかしようっていうことですね。経理であれば、営業がお客様の要望を聞いて複雑な取引とか複雑な支払いサイトとか組もうと思うんですけど、それは無理だからって言ってあげた上でお客様の要望も叶えつつこうやって落とし所をつけようよっていうのを言ってあげると、後々の経理業務が楽になるのでそこまで言える経理っていうのは素晴らしいですよね。

杉浦:売り上げの仕組みを作るときとかはそこから入るようにしていて、どういうエリアがあってどういう契約があってっていうのは目を通すようにしています。

門出:私は内部統制の構築支援を行っていてどちらかと言うと業務が増えると思われがちで、ちょっとうっとうしいものだと思われがちなんですけど、先日関与させていただいているクライアントさんのお話なんですが、一日400件の注文を受けていて、営業の方は10名しかいなくていっぱいいっぱいになっていて、上司の方も営業されている状況で、受注時の承認も特に取らずに営業担当者が値決めまでされていました。ヒアリングをしていると同じ製品を売っているのに得意先によって単価が3倍以上違うということがあるという事実がわかってきたんですね。そのことを社長やCFOの方に話をさせていただいたらそのことを全く知らなかったんですね。初めは負荷が増える内部統制の話だったのですが、もっと売り上げを上げるためにどうしようかという話にまで発展して、このような切り口で企業価値を上げるお手伝いができればと日々考えながらやっているところです。

土田響

監修:土田響(コンサルタント)

個人向け営業に従事していたが、財務・会計に興味があったことと新たなフィールドで活躍したいという想いで、ナレッジラボにジョイン。 中小企業に寄り添い、同じ目線に立って課題解決をすることで1社でも多くファンになってもらえるコンサルタントになるため日々奮闘中。

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